気まぐれコラム 第126回 ('07,7,8)



 今回のクルマはマツダのデミオです。

 これで3代目となるデミオですが、既にCM等で流れている通り、スタイリング及びその印象はガラリと変わりました。先代までを「コンパクトサイズのMPV」だとすると、今回は「コンパクトサイズのRX-8」といったところでしょうか。マツダでは初の採用となるCVTや新開発ミラーサイクルエンジンなど話題も豊富なこのクルマについて見ていくことにしましょう。

 まず外観からですが、写真で見たときは、キャブフォワードのワンモーションフォルムがヴィッツそっくりじゃないかと思ったものの、実物は意外なほどオリジナリティーを感じさせるものでした。特にフロントフェンダーの張り出しと独立感が印象的で、RX-8との共通点を感じさせます。そして一筆書きで勢いよく跳ね上げたかのようなサイドの意匠と、それをキュッと納めるリア・・・・このスタイリングは、近年のマツダ車の中では出色の出来だと言ってもよいでしょう。
 また、各部の造り・建付け等は先代よりソフトな印象でしたが、もちろん柔な感じなんかではなく、剛性を確保した上での約100kgもの軽量化ということを考えればむしろ拍手モノかもしれません。

 次にインテリアですが、ロードスターみたいなカッコいいT字型3本スポークステアリングがまず目に入り、次いで円を基調としたファニーなインパネが親しみやすさを演出してくれるというなかなか上手いデザインです。遊びが多い割に使い勝手も悪くありません。ただ、質感表現だけはさすがにトヨタ車には負けていると思いました。
 あと、このクルマのインテリアカラーは二つから選べるのですが、私はカームホワイトという白と黒のツートンカラーが極めて斬新で気に入りました。ちなみに、シートは撥水防汚加工になっているので、白くても心配無用だとのことです。
 室内空間は、スポーツカー張りのスタイルを採用したということで、さすがに先代と比べれば狭くなりましたが、それでも他社のコンパクトカー並みの広さは確保されており、ごく普通の使い方なら問題はないでしょう。各シートの造り・建付けも先代同様レベルが高く良いのですが、後席中央のヘッドレストと3点式シートベルトはオプションでもよいので是非設定して欲しかったところです。また、Aピラーの圧迫感はあるものの、上下方向に広いフロントウインドウと、ドアミラーにかけて低くなっているサイドウインドウ下端のおかげで、前方視界が思いのほか良好だったのが印象的でした。ラゲッジルームも意外と深さがあり使い勝手は良さそうです。

 試乗しました。SU-LEV、新開発ミラーサイクル1.3リッター4気筒16バルブDOHCエンジンにCVTを組み合わせた13C-V(2WD)です。私が乗ったクルマにはこれに数々のオプションがフル装備されていました。
 まず、ドライビングポジションですが、ステアリングはチルトのみでテレスコピック機能はないものの、シートの上下アジャスター等きめ細かい調整機構のおかげで比較的決まりやすいと思います。
 そしてひとたびアクセルを踏めば、初採用というのがウソのようにクセがなくスムーズなCVTと、ユーノス800以来久々のミラーサイクルエンジン(仕組みは全く別物)がピタリとはまって実に軽快な走りを体感することが出来ました。渋滞時の這い出しや坂道発進でもトルコン併用CVTですからクリープもあり、普通のATと同じような感覚で扱えますし、下り坂ではシフトレバー側面のボタンをワンプッシュするだけでSSモードになりエンジンブレーキが効きます。ただ、ミラーサイクルならではという実感が無かったのは先に乗ったノア・VOXY同様で、チョッと拍子抜けした感じでした。
 乗り味は先代のVWを思わせる重厚さ・強かさから一転、往年のフランス車を彷彿させるしなやかなものとなりました。これはオプションの185/55R15タイヤを履いた上での話ですから、軽量化と剛性確保の両立は本当だといえるでしょう。
 その他、電動パワステのフィーリングも正確で違和感の無い大変優れたものでしたし、前後左右の見切り・小回り性能など取り回しの良さ、ブレーキの効きなどにも全く問題はありませんでした。

 総評です。
 久々にマツダらしい、マツダの良さが前面に出たモデルの登場だといえるんではないでしょうか。何より印象的なのはボディーの軽量化が全てに効いているということで、より大パワー・重量ボディーへと傾倒していた今までのクルマ作りの流れを覆すに充分な力を持っていると思います。
 でも、これを実現するには、地道ながらも大変なメーカー技術力とエンジニアの根気が必要とされるわけで、今後マツダはもっと評価されて然るべきでしょう。
 最後にこのクルマ、乗り味の印象が何かに似ているなぁと試乗後ずっと考えていたんですが、かつてのフランスの名車・シトロエンAXだったことに気づきました。
 「羽根のようにヒラリヒラリと軽快にワインディングを駆け抜ける」・・・・最近のクルマには久しく使わなかった形容詞がピタリとはまる、それが今度のデミオだと思うのです。


 
  



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