気まぐれコラム 第118回 ('06,11,23)



 今回のクルマは日産のスカイラインです。

 とうとう日産(元はプリンス)乗用最古のブランドネームとなってしまったスカイライン・・・・国産スポーツセダン・GTの歴史を作ってきたといっても過言ではありません。
 そんなクルマが新世代のFRプラットフォーム(FMパッケージ)を引っさげ、ゴーン新体制の象徴として登場してから早5年、国産各社がスポーツカーの廃番を決断する、いわば逆境の最中にこの12代目(V36)へとモデルチェンジを果しました。
 それでは、さっそく検証していくことにしましょう。

 まず外観からですが、プラットフォームはキャリーオーバーということなので、全体のシルエットは先代から大きく変わってはいません。ただ、細かく見ていくとフロントにフーガ、リアまわりにスカイラインクーペ風の意匠を持ってくるなど、全体のバランスをとりながら、最新の日産車としてのアイデンティティーを表現しようとしていることが良く分かります。また、随所にマッシブなうねった曲面を使い始めており、おそらくこれが今後の日産デザインのトレンドとなっていくのだろうと思います。

 次にインテリアです。
 メーターパネル連動チルト&テレスコピックステアリングなど良い点は継承しつつ、カーナビの搭載位置など先代に見られた使いづらかった点を改善してきたという印象です。更に内外装共に質感が一気にアップして、フーガに近づいたのは評価できます。
 ただ、室内空間は全高が下がったおかげで、全席ともタイトな印象となり、シート形状も先代の独特な全席ドライバーズシート風のものからごく常識的なスポーティーセダンのものに戻ってしまいました。特に、座面全体が沈み込むメルセデススタイルのシートは国産車では希少な存在だっただけに残念です。
 トランクルームは、リッドにパンタグラフ式ヒンジを継承しているものの(ちなみに今回からボンネットフードもダンパー式になった)、肝心のラゲッジスペースは、大きなリアサスユニットの張り出しのため使いづらく、内張りも安っぽいものだったのがマイナスポイントです。

 試乗しました。新開発のSU-LEV、可変バルブタイミング機構付2.5リッターV型6気筒DOHCエンジンにシーケンシャルモード付5速ATを組み合わせた250GTというモデル(FR)です。
 ところで、試乗したクルマはベーシックグレードながら、最近のお決まりともいえるキーフリーシステムとプッシュ式エンジンスターターを装備していましたが、やはり使いやすかったです。ドライビングポジションもきめ細かく調整でき、さすが国産GTの雄といわれるだけのことはあると思いました。
 さて、そんな満足感とともに、重厚なオルガンタイプのアクセルペダルを踏み込んでスタートすると、エンジンとATのフィーリングが先代とまるで違うということに気づかされます。それは、若干飛び出し気味にセッティングされたATのおかげで出足が良いのと、銘機VQエンジンの系譜としては異例に評判の悪かった先代の直噴タイプから、標準燃焼タイプに戻して新開発したVQ-HR型エンジンの、ショートストロークらしい胸のすくような加速とシャープな回転感覚によるものに他なりません。
 また、この5速ATはJATCO製としては珍しく?、ショックの少ない実にスムーズでフレキシブルな変速を行い、エンジンブレーキを効かせたい時のマニュアルシフトダウンなどでは、電子制御で中吹かしを入れて4速から2速へダイレクトに落とすなど芸の細かいこともやってくれます。
 更に乗り心地も、先代の独特な「水澄ましの如くスイスイと軽くフラットな感じ」から、しなやかながらも重厚な欧州車風へと変貌を遂げており、駆動系とのバランスを取った形になっています。
 その他、ブレーキの効き、旋回性能、見切りの良さなどに問題はありませんでしたが、大径タイヤのおかげで若干最小回転半径が大きいのが気になりました。

 総評です。
 思えば先代V35型スカイラインは、色々な意味で革新的・理想主義的なクルマでしたが、元々ローレルの後継車として開発されていたということもあり、スカイラインの名を名乗るには若干無理があったと言わざるを得ないものでした。案の定、コアなスカイラインファンからは否定的な意見が多く、それが今回のモデルチェンジに繋がったということは想像に難くありません。そんな意味では「スカイラインが帰ってきた」と言えなくも無いでしょう。
 ただ、個人的には、先代に見られた「新世紀セダン」としての数々の新しい提案が、ことごとく否定されてしまったのは残念で仕方ありません。例えば、先にも書いた独特なシート形状&構造とか、「フラットライド」を謳った上質な乗り味の追求などです。
 かくなる上は、このV36スカイラインとは別に、「正統的V35後継車」(車名はローレルでも何でも構わない)の開発を日産には切に望みたいということを書いて、今回はアップすることにします。


 
  



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