気まぐれコラム 第48回 ('02,10,14)



 今回のクルマは日産のキューブです。

 このクルマは、ルノーと提携する以前、不振に喘いでいた日産を支えてきた大切なクルマといえるでしょう。背は高くて立体駐車場には入らないものの、そのマーチベースのコンパクトなサイズと低価格、大きなユーティリティースペースは多くの人の支持を得たものでした。
 しかし、私はそのデザインに不満を隠せませんでした。あまりにも没個性的で無神経、美意識のかけらもない・・・・、と言ったら言い過ぎかも知れませんが、やはり意匠面だけで言えば、正直、評価できないクルマでした。
 そんな中でのモデルチェンジ。日産もデザイン重視の新体制となり、聞くところによると、かのデザイナー、中村史郎氏の肝煎りのクルマだと言うことで、大いに期待していました。

 それでは詳しく見ていきましょう。まず外観からですが、サイズは前モデルとあまり変わらず、特に立体駐車場に入らない(1640mm)のは残念です。このキューブと似たようなお家事情で同サイズのライバルに、マツダのデミオがありますが、あちらは以前から全高1550mm以下です。
 そして注目のエクステリアデザインですが、これは大冒険といえるでしょう。この背の高さを逆手に取った、ファニーなスタイルは、相当アクの強いもので、目を引きます。
 遠目に見るとキューブの名の通り、真四角に見えますが、近くでよく見ると、すべて巧みにデザインされた曲面で出来ているという、デザイン的にかなり高度な手法が使われています。このあたりはトヨタのbBなどとは比較にならないほどのデザイナーの力量を感じさせます。
 そしてポイントになるのが、前モデルの縦開きから横開きに変更したリアハッチを強調する、左右非対称のガラスセクションです。その狙いは挑戦的で、今の日産の勢いすら感じさせるものといえるでしょう。
 また、どこか'50年代の欧米の家電を思わせるデザインテーマは、日産と提携関係にある、スズキのラパンと共通するところがあり、ひょっとするとデザイナーの交流もあったのかも知れません。
 いずれにせよ、デザインは好みの問題ですので、言及は避けますが、私個人としては、大いに評価したいと思います。
 各部の建て付けなどは、それなりに、といったもの。日産はこのへんの見切り方が潔く、どこかフランス車を思わせるところがあります。それもまた、トヨタとは違う方向性で面白いところだとは思います。
 内装は3色、2マテリアルを外装の8色と自由に組み合わせられるもので、ここら辺もデザインへのこだわりを感じさせます。私は、外装がビームグレーという濃いめのグレーに、モカという茶色のシートの組み合わせに、とてもハイセンスで新鮮な印象を持ちました。シートはリビングのソファーをモチーフにしたというベンチシートで、当たりが柔らかく、くつろげる上に、意外なほど運転時のサポート性もよく、この手のモノの中では一番だと断言できます。
 しかしインパネまわりには正直感心しませんでした。他がこれほどハイセンスにデザインされているのに、どうしてか不思議です。マーチにはないタコメーターが装備されたのは歓迎ですが、文字盤のデザインがありきたりで野暮ったく、いかにもアンバランスです。
 居住空間はこのボディーですから不満があろうはずはなく、大人4人には充分以上のものです。ただし、ラゲッジスペースには不満があります。ライバルのデミオやbBがリアシートをダブルフォールト出来るのに対して、キューブは背もたれを倒して座面を前にスライドさせることしか出来ず、今ひとつ空間を活用しきれないからです。

 試乗しました。1.4リッターの4気筒DOHCエンジンに4速ATを組み合わせた2WDのEXというモデルです。キューブには待望の6速モード付CVTも用意されるのですが、今回は残念ながら乗れませんでした。
 走り出す前にまず、このクルマのコラムシフトはどうにかならないものかと思います。ウォークスルー実現のためには一番手軽な方法なのかも知れませんが、操作フィーリングも悪く、気になります。
 ただ走り出してしまえばエンジンはスムーズかつトルクフルで、雑誌等で言われるほどエンジンのがさつきもなく、気持ちよくドライブできるクルマだと思いました。サスペンションもマーチ譲りで、フランス車的なしなやかさを保ちつつも、背の高さから来る不安定感とは無縁で、好印象です。
 また、全長が短く(3730mm)、運転席からボンネット先端がよく見え、小回りもよく利く(4.4m)ので、取り回しの良さは抜群でした。

 総評です。キューブは、とにかくデザイン勝負のクルマです。その意味ではレベルの高いクルマだと思いますが、このような背の高いミニミニバンのコンセプト自体には正直食傷気味だと言わざるを得ません。
 私個人としては、以前あったマーチBOX(マーチベースのステーションワゴン)のコンセプトを、今の日産デザインで復活して欲しいと願っているのですが、どうでしょうか。


 
  



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