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今回のクルマはトヨタのイストです。
このクルマは最近脚光を浴びているコンパクトカーに属するクルマです。このセグメントではヴィッツというクルマを持っているトヨタですが、ホンダのフィット、日産のマーチといった強敵が現れてきた中で、プレミアム路線を標榜することでトヨタのアイデンティティーを鮮明にしようとしたと考えられます。
いずれにせよ、4m以内の全長、1.7m以内の車幅、立体駐車場対応の1.55m以下の車高というディメンションは、今の日本の交通環境の中では理想的なサイズと言えます。
それでは具体的に見ていきましょう。
まず外観からですが、コンパクトカーと言うには随分ゴツい印象のボディーデザインです。このクラスのクルマとしては大径の15インチタイヤを履いたことが原因でしょうが、まるでSUVのようです。それに加えて対衝突性能を考慮したという太いピラーがその印象に拍車を掛けます。私はこのデザインは中途半端という気がします。どうせなら頑丈なサイドプロテクターなどを奢ってコンパクトなヘビーデューティーカーという新ジャンルを創ってしまえば良かったのに、と思うのですが････。
また、各部の建て付けなどは、さすが最新のトヨタ車と言えるもので、このクラスでも手抜かりはないようです。ただ、これは本当の意味でのクオリティーとはちょっと違うなと最近思うようになりました。ディーラーで盛んに説明するように、ドアを閉めるときの音は確かに重厚感があります。しかし、これはブッシュ類のチューニングでいかようにも出来ることです。問題はドアを開けて中立状態の時のがっしり感なのです。この辺はまだまだヨーロッパ車には及ばない、というのが正直な感想です。機会があればドアのヒンジの造りを見比べてみれば一目瞭然です。
インテリアに関しても同様のことが言えます。確かに日本車のライバルに比べれば上等な印象を持ちますが、どこか骨太な感じに欠けるものです。この辺を克服するとトヨタのクルマもメルセデスなどと同等に扱われると思うのですが、この価格帯でそれを望むのは酷かもしれません。
それでもシートの出来はなかなか良いものでした。ヴィッツRSで採用されているものに似た感じのもので、クッションの固さ、サポートの適度さ共に満足いくものです。後席まわりの空間も充分確保されています。
インパネまわりのレイアウトもトヨタお得意のセンターメーターを中心に良くまとまっており、その点では欧州車を含めても一番と言えます。特にカーナビスペースの取り方は日本車の独壇場と言えるものです。
試乗してみました。まずこのクルマに乗り込んで気になるのはAピラーの傾斜です。私はこの点には割と寛容な方ですが、このクルマの迫り来るピラーの圧迫感は相当のものです。前に述べたように対衝突性能のためとはいえ、これだけの車高を持つクルマでこの狭隘感はちょっと我慢できないものです。
走り出すと外観から想像する通りのがっしりとした硬めの乗り味のクルマです。ステアリングの感じも同様で、最近のトヨタ車は皆この方向の味付けなのに気づかされます。この辺は好みでしょうが、私個人としてはもうちょっとしっとりした感じの乗り味を望みたいです。
ただ回転半径の大きさはこのクルマのウィークポイントです。カタログ上の数値は5.3mですから普通かと思いきや、実際に運転してみると「おやっ」ということになります。それもそのはずで、ライバル車は皆4m台でターンできるのですから、違和感があるのも仕方ありません。
エンジンに関しては1.3リッター車は上り坂などでやや非力さを感じさせるもののタウンカーとしての使い方なら問題ない程度で、音もそれなりにします。それに比べると1.5リッター車の方は走りに余裕があり、音も静かです。1.5リッターの4WD車は若干低速トルク重視のセッティングでパワフルに走ります。
ブレーキの性能も15インチだからどうだというようなものでもなく、ごく普通のものでした。
それでは総評です。
このクルマを一言で言うなら「分裂症」ということでしょうか。名前からして「ist=主義者」という哲学めいたものですから、考えすぎて迷宮にでも迷い込んだか、と思わずにいられません。全長に比べて短めのホイールベースに大径のタイヤ、トールボディーに傾斜した太いAピラー、SUV風の下半身にスマートな上半身････。それぞれのことには意味やメリットがあるのですが、それを一台の車にしてしまうというのは、あまりにも無理があるのではないでしょうか。
その点、フィットやマーチには明快さがあります。その分割り切りもあるのですが、コンパクトカーはそれこそが魅力でもあると私は思うのです。イストは色々なことを追求したが為に本来のコンパクトカーとしての意味を失ってしまったのではないでしょうか。
これから登場するトヨタの他のクルマもイストと同じような「迷宮」に迷い込まないことを心から祈りたいと思います。
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