気まぐれコラム 第31回 ('02,1,21)



 今回のクルマはトヨタのプレミオ・アリオンです。

 このクルマは日本のモータリゼーションの黎明期から続いていたトヨペットコロナの後継車種です。今回ユーザーの若返りを狙って、この歴史ある名を捨てたことに私は疑問を持ちます。何故ならコロナはカローラと共に日本のスタンダードカーとして世界に誇りうるクルマになれたと思っていたからです。いくらイメージを一新したいからと言って、何もかも変えてしまう今の風潮にはどうも疑問を感じます。
 とはいうものの、変わったのは名前だけで、その設計思想は紛れもないコロナであり、その点では安心しました。

 詳しく見ていきましょう。プレミオとアリオンは全くの兄弟車であり、外装以外は変わらないのです。より保守的なのがプレミオ、若干若者向けがアリオンと考えればいいと思います。また、そのデザインですが、360度見回してみても破綻したところはありませんが、斬新なところも感じません。先に出たカムリ、ウインダムの流れを汲むものだと感じました。それより好ましいのはこのクルマが5ナンバーサイズにとどまっているという点です。実際、色々なことを合わせると、日本で使うクルマのサイズ、エンジン排気量としては、これくらいが最も合理的でベストだと感じるのです。
 各部の建て付けなどは、またトヨタはランクアップしたな、と言う印象です。日本車のこのクラスでは間違いなくトップのクオリティーです。ドアの開閉も適度な重厚感があり好印象です。ただ、トランクがパンタグラフ式でないのは不満です。
 インテリアを見てもこの印象が続きます。グレード的にはマーク2とほぼ同等と感じさせる造りです。特にドアまわりのマテリアルが上質感があり感心しました。また純正カーナビの設置位置も良く(これはもうトヨタの標準となったようです)、オーディオの設定等も気が利いていて、トヨタらしい抜かりのなさを感じさせます。木目の使い方も嫌みがなく上品です。上部がダークで下部がアイボリーの内装も私は好きです。
 ただ、安全装備には大いに不満があります。最新のクルマにもかかわらずこのクルマにはサイドエアバッグやカーテンシールドエアバッグ、VSCやイモビライザー等の設定がないのです。国内専用車と言うことで見切ったのだとしたらトヨタというメーカーの見識を疑います。
 前席シートの造りはまさにリーズナブルな出来といえるものです。ただ個人的にはビスタのフランス車風のシートの方が好みですが・・・・。また着座位置を高めに取ったため若干ヘッドルームがきつい気がしました。
 後席のシートとそのアレンジは変わっています。国産車のセダンとしては珍しいダブルフォールトで、トランクスルーを実現しています。またリアパッケージングトレイがリクライニングに連動した可動式で取り外しも出来るため、かなりまとまった空間を荷室として得ることが可能です。ただ問題なのは、せっかく大きな空間を得ても荷物を積み込むスペースが小さい点です。ここまでやるのならリアはハッチバックにすべきではないでしょうか。セダンというスタイルにそこまでしてこだわる必要があるのかが甚だ疑問です。また後席をアレンジする際の手順が複雑なのも気になります。

   試乗してみました。プレミオの1.8リッターX"EXパッケージ"の2WDに乗りました。
 実にニュートラルなクルマです。この感じはフォルクスワーゲンのパサートによく似ています。すべての操作感が自然で引っかかるようなところはありません。エンジン音はパサートより静かです。ステアリングの剛性感が印象的です。それでいてドイツ車のような重さはなくあくまでもスムーズで軽快な感じです。
 また足回りは今までのトヨタ車に比べると若干硬めなものです。ホンダ車ほど硬くはなく、悪くはないのですが、私はトヨタにはかつての良き頃のフランス車風なサスセッティングを望みたいのです。つまり「しっかり」より「しっとり」です。その方がトヨタらしいと思います。
 ブレーキもコントローラブルで上質な効きを示しますし、小回りも利き、車両感覚も掴みやすいものです。最新のクルマとしては5速のATが欲しいところですが、実用上この4速ATでも全く問題はありませんでした。

 総評です。このプレミオ・アリオンというクルマは安全装備を除いては、現時点でのジャパニーズ・スタンダードカーと言っても良いでしょう。全てにそつなく出来ており、適度な高級感も備えています。価格も適当だと思います。ただ、いつものように、トヨタ車には強く訴えかける魅力のようなものが無いのです。そこで、私は「しっとりしていながらコシのある、良い意味でのやわらかい乗り心地」こそが、トヨタ車独自の魅力になりうると提案したいのです。最近のフランス車がどんどんドイツ車風の「こじっかりした」乗り味になっていく中で、この線はアリだと思うのですが、どうでしょう。


 
  



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